地震・豪雨・人口減少など、社会インフラへの負荷が高まり続ける日本。電力・水道・通信などのライフラインに対策が進む一方で、いまだ解決が遅れる重要領域が“災害時のトイレ”だ。断水や停電が長期化する被災地では衛生環境が急速に悪化し、避難生活の継続性にも深刻な影響を及ぼす。
本記事では、水処理・排水処理の専門家として災害トイレ研究を牽引し、大学発ベンチャー e6s(エシックス)株式会社を創業した日本大学工学部 教授・中野和典(なかの・かずのり)氏 に、研究の原点、社会実装の壁、そしてJOYCLEの技術と掛け合わせた未来像について、代表・小柳裕太郎が話を伺った。
研究の原点――“東日本大震災の無力感”から始まった災害トイレ研究
小柳:まず、中野先生が災害トイレに向き合うようになった背景を伺えますか。
中野:実は私は、もともと“トイレの研究者”だったわけではありません。長く水処理・排水処理を専門に研究してきました。ただ、仙台で経験した東日本大震災で、避難所のトイレ環境が深刻な状況になっているのを目の当たりにし、「水の専門家である自分が何もできていない」と強い無力感を覚えました。
その後、福島・郡山キャンパスで取り組んでいた“ロハス工学”のプロジェクトや、水と電気を自給自足する住宅モデルに触れ、「非常時にも自立して機能するトイレがあれば、人を救える」と気づき、2015年頃から本格的に災害トイレ研究に取り組むようになりました。

e6sの誕生――大学発研究を“社会で使える形”にするために
小柳:研究から会社設立へ進んだ理由は何だったのでしょう。
中野:大学で研究しても、それが社会に普及するためには“商品化・実装”が欠かせません。震災のたびにトイレ問題は話題になりますが、すぐに忘れられてしまう。この状況を変えるため、5年の実証を経て2021年に e6s株式会社 を立ち上げました。
e6sは、「専門業者や大型インフラに依存せず、災害時でも自立運転できるトイレシステム」を開発する大学発ベンチャーです。郡山市や調布市、清水建設といった自治体・企業との導入を通じ、避難所運営や現場での課題解決に向けた実証を重ねています。

国内にこだわる理由――日本の災害対応は、まだ十分ではない
小柳:SDGsでは海外のトイレ支援が注目されますが、国内を優先する理由は?
中野:海外より先に、日本の災害時のトイレが十分に確保できていないことが最大の理由です。能登半島地震では1〜3ヶ月も断水が続き、取材に来た記者ですら「初めてトイレの重要性を理解した」と話すほどでした。
日本はウォシュレットに代表されるように、トイレ技術で世界を牽引してきた国です。まず国内の災害対応を盤石にすることが、将来的な海外展開にとっても強い基盤になると考えています。
JOYCLEとの出会い――“現場で処理が完結する”技術の親和性
小柳:今回、JOYCLEに関心を持っていただいたきっかけを教えてください。
中野:日本大学の災害対策プロジェクトで東京電力の方から紹介していただいたのがきっかけです。
e6sのトイレは専門業者を呼ばずに自立運転できますが、唯一の課題は「廃棄物処理を自分たちで行う必要がある」点でした。
そこに、JOYCLEさんのシステムが“現場で処理まで完結できる”という特徴を持っている。災害時は回収車が来ず、処理場への輸送も困難になりますが、両者が一体となればその課題を大きく緩和できると感じました。
特に、モバイル型インフラという思想が非常に近い。普段は必要ないが、非常時には確実に求められる技術という点で、共通する世界観を持っています。

共創可能性――災害・離島・限界集落での“自立インフラ”をつくる
小柳:現場をご覧いただいて、共に取り組めそうな領域はありましたか。
中野:日本はこれから、行政サービスが届きにくい地域が確実に増えます。限界集落、離島、豪雪地帯などは、特にトイレや廃棄物処理がインフラ崩壊の起点になります。
e6sの“自立型トイレ”と、JOYCLEさんの“現場完結型の資源循環”が組み合わさると、行政の回収車や大型処理場に依存しない完全オフグリッド型インフラが実現します。避難所だけでなく、小規模集落や離島での実装にも十分な可能性があります。

事業フェーズの共通点――アーリーアダプターと磨き上げる段階にある
小柳:事業フェーズも似ていますよね。
中野:e6sも行政導入は2自治体、民間は1社と、まだまだ発展途上です。導入先と課題を解きながら製品を磨く段階にあります。
JOYCLEさんも同じく、1号機で得た課題を踏まえて次の号機へ改善を進めている。
“完璧な状態で売るのではなく、アーリーアダプターと共に価値を創る”姿勢は非常に近いと感じました。こうした段階でこそ、互いに学び合いながら実装可能性を広げていけると思います。
未来への展望――“ふるさとを諦めないためのインフラ”を共同でつくる
両者が描く未来は明確だ。
災害でも、離島でも、限界集落でも、人が暮らし続けられる社会。
“自立型トイレ(e6s)”と“現場完結型の廃棄物処理(JOYCLE)”が連動し、廃棄物から熱と電気を生み、トイレを再稼働させ、必要に応じて移動する──
循環型かつ機動型の小規模インフラが成立する可能性がある。
こうしたモデルが確立すれば、地方の小さな集落でも「自分たちだけで回る生活インフラ」が構築でき、“ふるさとを諦めない”ための新しい公共基盤を日本に生み出せる。
“前例のない領域”で、次の一歩を共に
災害時のトイレも、現場完結型の廃棄物処理も、まだ十分な解が確立されていない。しかし、両者が連携することで、“災害に強く、人が暮らし続けられる地域循環モデル”の実装ルートが現実味を帯びてくる。
技術の成熟に向けた実証、制度面の整備、自治体との協働。
一歩ずつ積み重ねながら、中野教授とJOYCLEは“前例のない領域”を共に拓こうとしている。

