アートや文化の発信拠点として知られる天王洲。その中核を担う寺田倉庫株式会社(以下、寺田倉庫)は、2024年にスタートアップの成長を支援するインキュベーション事業「Creation Camp TENNOZ」(以下、CCT)を立ち上げ、“街×スタートアップ”という新たな共創モデルを始動しました。
2年間の長期伴走で、事業と起業家の両方を育てる――そんな異色のインキュベーションプログラムの第1期生としてJOYCLEが選ばれています。
本記事では、CCTを統括する寺田倉庫 株式会社 執行役員・CEO付ミライ創造室 室長の月森正憲さんに、立ち上げの背景、JOYCLEを採択した理由、伴走の哲学、そして「街を実験の場にする」という未来構想について、代表・小柳裕太郎が聞きました。
CCTの誕生――「街×スタートアップ」で“創造の余白”を取り戻す
小柳:まず、「CCT」を立ち上げた背景を教えてください。
月森:寺田倉庫は1950年に創業し天王洲を拠点に、米を保管するところから始まった会社です。現在はアートやワイン、映像フィルム、機密文書など専門性の高いものを保管し、「お預かりしたものの価値を高め、未来へつなぐ」ことを使命としています。
個人向けには「minikura」という宅配型トランクルームを展開し、誰もが自分のモノをクラウドサービスのように簡単、便利に預けられる仕組みを提供しております。
このような保管事業だけでなく、アート・カルチャー事業も展開。ギャラリーの集積やイベントの運営、さらにアートの修復、輸送、展示支援までを一気通貫で行うことも含め、“モノを大切にお預かりする”だけでなく“文化を育てる”活動を推進しております。
また、天王洲という街全体の活性化にも取り組んでおり、四方を水辺で囲まれた天王洲を文化発信拠点へと転換し、アート、スタートアップなどクリエイティブな人が交わる街へと進化させようとしております。
CCTの取り組みは2024年10月からスタートしておりますが、近年、日本のスタートアップ支援の取り組みにおいて、スタートアップの世界に“創造の余白”が少なくなっていることを感じていました。
急成長を求められる環境の中で、事業も人もじっくり育てる時間と空間が失われつつある。
そのような想いで、天王洲という街そのものをインキュベーションの場にしようと考え、CCTを構想しました。

寺田倉庫の原点と挑戦――「価値を預かる」から「未来を育む」へ
小柳:寺田倉庫さんといえば、保管・アート事業の印象が強いですが、なぜスタートアップ支援を?
月森:きっかけは2010年代初頭、あるファッションレンタル事業を構想として描いているスタートアップとの出会いでした。当社では、その出会いより前に倉庫管理システムをAPI化し、物流・保管の機能を連携できる仕組みを構築しておりました。
そのスタートアップに対し、当社の機能をシームレスに提供できたことから「倉庫のノウハウが、新しいサービスの立ち上げを支えられる」ことを実感しました。
以降、同様に倉庫活用型でスタートアップの支援を複数展開し、事業をスタートアップと共に立ち上げる役割を続けてきました。
CCTはその延長ではありましたが、さらに踏み込んで事業の課題や経営、組織の課題に向き合うためには、もっと近くにいる事、また、挑戦する人が集まり支え合う「場」が必要だと感じました。だからこそ、CCTでは“街全体でスタートアップを育てる”という形をとっています。

JOYCLE採択の理由――「百年後の社会をつくる」というビジョン
小柳:CCT1期生に、なぜJOYCLEを採択していただけたのでしょうか?
月森:最終的な決め手は、「百年後の社会をつくる」という小柳さんの言葉でした。
私たちも“価値を未来に繋ぐ”ことを仕事にしてきたので、時間軸の近さを感じました。
JOYCLEが提唱する「ごみを運ばず・燃やさず・資源化する」という分散型インフラの発想は、社会の仕組みそのものを変えていくスケール感がありました。
事業としての合理性だけでなく、「社会の根幹を再設計する意志」に強く共感しました。
伴走の哲学――「KPIではなく、課題の本質を見つめる」
小柳:CCTでの月次共有や壁打ちは、まさに“寄り添う”という言葉がぴったりです。
月森:ありがとうございます。CCTでは、KPIやKGIの進捗確認よりも、“見えにくい課題”を吸い上げることを重視しています。スタートアップは進捗の速度も課題の種類もバラバラです。
だからこそ、一律の指導ではなく、「その企業に今必要な支援」を設計していく。
自治体連携や補助金申請、パートナー企業の紹介なども、全て個別最適です。伴走とは、“隣で同じ景色を見ること”だと思っています。

実装の次フェーズへ――「街を実験の場に」
小柳:CCTも2年目に入りました。今後の展望を教えてください。
月森:1年目で得た経験をもとに、次は「実証・社会実装のフェーズ」に入ります。
天王洲は水辺に囲まれたコンパクトな街で、社会実験に最適です。CCTに関わる企業や自治体と連携し、実装フィールドを拡大していきたいと思っています。
また、CCTを卒業したスタートアップが今度は支援側に回り、“共鳴し合うエコシステム”をつくる。そんな循環型のコミュニティを目指しています。
天王洲を「社会実験の舞台」に――共創が描くこれから
JOYCLEと寺田倉庫は、天王洲を実証フィールドとした社会実装の可能性について検討を進めています。
CCTで培ったネットワークを活かし、自治体・産業・生活者が交わるリアルな都市空間で、分散型インフラの有用性を検証していく方向性を共有しています。
想定されるテーマは、都市ごみの現地資源化、防災時のエネルギー確保、イベント時の再資源化モデルなど。
天王洲を「未来の都市インフラを試せる場所」として再定義し、地域から社会変革を起こす実践の舞台に育てていくことを目指しています。
「CCTでの共創を、単なる支援関係ではなく“社会実験の共創関係”にしていきたい」――そう語る月森さんの言葉に、JOYCLEの小柳も深くうなずいた。

“街から社会を変える”仲間とともに
JOYCLEと寺田倉庫の共創は、単なる出資関係ではありません。
それは、「仕組みから社会を変える」という共通の意思でつながった長期的な協働です。
「価値を高め、未来へつなぐ」寺田倉庫と、「資源と喜びが循環する社会をつくる」JOYCLE。
両者が交わる天王洲の街は、いま、創造の余白から次の社会を描き始めています。

